ニュースレター
神戸陽子線センター ニュースレター Vol.14
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今号では、2026年6月に保険適用となった大腸がん肺転移に対する陽子線治療、令和7年度の治療実施症例(成人219例・小児55例)、マレーシア・プトラ大学との国際共同研究、早期肺がんに対する照射技術の刷新、軟部肉腫に対する術前陽子線治療についてご紹介します。
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2026年6月から3個以内の大腸がん肺転移に対する陽子線治療が保険適用となりました
保険適用となる具体的な状態について
切除不能の3個以内の大腸がん肺転移が保険適用となりました。具体的には、原発巣切除後で局所再発がなく、肺外転移が制御されているものが対象となります。
保険適用の詳細については、陽子線治療を行っている施設で必要な検査結果を評価し、決定する必要がございます。陽子線治療を希望される場合は、かかりつけ医療機関の担当医師へ当センター紹介をご依頼ください。
治療方法がなくお困りの方へ
手術の対象外となる理由は様々ですが、その一因に間質性肺炎、重症心不全などの基礎疾患、高齢などがあります。X線治療(一般的な放射線治療)についても基礎疾患に間質性肺炎があると治療対象外となることが多いです。
上記のように手術やX線治療対象外となった場合も、陽子線治療であれば治療の適応となることがございます。お困りの場合は、是非当センターへご相談ください。
保険適用外の転移性腫瘍について
転移性腫瘍で保険適用となるのは大腸がん肺転移のみですが、当センターでは少数個の転移性肝腫瘍、転移性リンパ節などに対しては先進医療として陽子線治療を行っております。これら転移性腫瘍に対して治療希望がございましたら、当センターへご相談いただければ幸いです。
現在保険適用となっている部位以外の様々な悪性腫瘍に対して保険適用拡大に向けて全国の粒子線施設と連携して取り組んでまいります。保険適用が拡大された際は当センターホームページ上で掲載していきますのでどうぞご覧ください。
令和7年度の治療実施症例について
| 部位 | 症例数 | 割合 |
|---|---|---|
| 前立腺 | 120例 | 55% |
| 骨軟部 | 33例 | 15% |
| 頭頸部 | 21例 | 10% |
| 肝臓 | 19例 | 9% |
| 肺 | 12例 | 5% |
| 食道 | 3例 | 1% |
| 膵臓 | 3例 | 1% |
| その他 | 8例 | 4% |
| 合計 | 219例 | 100% |
| 疾患 | 症例数 | 割合 |
|---|---|---|
| 脳腫瘍 | 30例 | 54% |
| 骨軟部腫瘍 | 13例 | 24% |
| 神経芽腫 | 6例 | 11% |
| 網膜芽細胞腫 | 3例 | 5% |
| 腎腫瘍 | 1例 | 2% |
| その他 | 2例 | 4% |
| 合計 | 55例 | 100% |
国際共同研究の取り組みについて
神戸陽子線センターでは、日々の診療や臨床研究に加え、より安全で高精度な治療を患者様に提供するため、海外の教育機関や研究開発企業との基礎的な共同研究にも力を入れています。現在、マレーシアのプトラ大学と共同で、新規開発されたシリカ光ファイバーを用いた陽子線の線量測定に関する研究を進めています。実験は現在進行中ではありますが、こうした活動を通じて放射線治療および陽子線治療分野のさらなる発展を目指しています。
同大学との連携は、以前の兵庫県立粒子線医療センター(たつの市)における共同研究から続いており、当時の研究成果は学術誌「Radiation Physics and Chemistry」に掲載されました。今回はその共同研究の第二弾となります。
また、より高度な線量保証体制の構築を目指し、陽子線治療の品質管理(QA)分野においても、ヨーロッパの研究開発企業と新たにMOUを結びました。今後も日常の診療に将来的に還元できるような研究活動を続け、当センターにおける陽子線治療の発展と国際化に向けて、引き続き尽力してまいります。
早期肺がんの陽子線治療、より精密・短期間な治療法へ
執筆:朴 成哲(放射線治療科)
神戸陽子線センターでは、早期肺がん(ステージI-IIAの非小細胞肺がん)に対する陽子線治療の照射方法を大きく刷新しました。
従来、当センターでは「受動散乱法(PSPT)」と呼ばれる方法で陽子線を照射してきました。受動散乱法は実績のある安全な技術ですが、陽子線を腫瘍に集中させる精度の点で限界がありました。このたび、複数の方向から最適化した陽子線を照射する「多門最適化照射(MFO)」という新しい技術への移行を完了しました。多門最適化照射では陽子線を腫瘍の形状に沿ってより精密に当てることができ、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えることが期待されます。
なお、陽子線は体を通り抜けるX線と異なり、狙った深さで止まる性質があるため、もともと周囲の正常組織に当たる線量を抑えやすい特長があります。受動散乱法も多門最適化照射もこの陽子線の特長を備えており、多門最適化照射ではその集中性をさらに高めています。
臨床への導入に先立ち、精密な人体模型(ファントム)を使った実験を繰り返し行って必要な照射精度を確認し、その上で従来の照射スケジュール(計10回)を多門最適化照射で実施して、安全に治療を提供できることを確かめました。
次の段階として、4回の照射で治療を完了する新しいスケジュールへの移行を開始します。通院回数が10回から4回に短縮されることで、患者さんの身体的・時間的な負担が大きく軽減されます。安全性を最優先に、まず呼吸による腫瘍の動きが小さい方から対象を絞ってスタートし、安全が継続的に確認された範囲で徐々に対象患者さんを広げていく予定です。なお、この治療が適しているかどうかは、がんの状態や呼吸による腫瘍の動きなどを踏まえて主治医が個別に判断します。
従来のX線治療・受動散乱法(PSPT)・多門最適化照射(MFO)で放射線が当たる範囲がどう違うかを示した図は、PDF版に掲載しています。
軟部肉腫に対する術前陽子線治療を行っています
執筆:出水 祐介(放射線治療科)
手術で完全に取りきることが難しい軟部肉腫(脂肪や筋肉にできるがん)に対しては、①手術と放射線治療の組み合わせ、または、②放射線治療のみが行われます。当センターでは、開設以来②を行ってきましたが(陽子線は狙った深さで止まる性質があり、X線に比べて腫瘍の周囲の正常組織に当たる線量を抑えやすいという物理的な特長があります)、2022年4月から①のうち、手術の前に陽子線治療を行う「術前陽子線治療」を開始しました。
2025年12月までに陽子線治療を開始した14名の患者さんについて解析しました。年齢は28歳から77歳、男性8名・女性6名、部位は下肢5名・殿部4名・上肢2名・腰背部2名・後腹膜1名、肉腫のタイプは粘液型脂肪肉腫9名の他、悪性末梢神経鞘腫・滑膜肉腫・脱分化型脂肪肉腫・平滑筋肉腫・未分化多形肉腫がそれぞれ1名でした。全ての患者さんに25回(5週間)の陽子線治療を行いましたが、照射中の副作用はほとんどが日焼け程度の皮膚炎のみでした。手術の後1回以上診察できていたのは7名で(残りは手術直後または手術前)、手術で完全に取りきれた方が5名、顕微鏡レベルで残っている方が2名でしたが、いずれも再発は見られていません。術創に合併症が生じたのは1名のみでした。全ての患者さんが生存中で陽子線治療+手術をした部位の再発はありませんでしたが、骨への転移が2名に見られました。照射後数ヶ月以降に見られた陽子線治療の副作用は軽度の皮膚炎(日焼け後の軽い黒ずみ程度)のみでした。
手術の後、「顕微鏡レベルで残っている」と心配だと思いますが、手術の前に放射線治療(陽子線治療)をしておくと、そういう状況でも再発しにくくなることが知られています。長く経過を見ないと分からないところはありますが、当センターで治療を受けられた方も再発していません。
全国でも術前陽子線治療を行っている施設は限られています。当センターでは引き続き、軟部肉腫の患者さんのためによりよい治療法を開発していきたいと考えています。
本稿の結果は、当センターで治療を受けられた14名の方の比較的短い期間の経過をまとめたものです。個々の患者さんの経過や治療の効果を保証するものではありません。治療が適しているかどうかは、がんの状態などを踏まえて主治医が個別に判断します。
当センターの基本理念・基本方針
基本理念
科学的根拠に基づき、がん医療の未来を拓く陽子線治療を推進します。
基本方針
- 最先端の陽子線治療施設として高精度の放射線治療を提供します。
- がん医療の進展を反映した陽子線治療を行います。
- 小児がんに重点を置いた陽子線治療を提供します。
- 患者さんの意思を尊重し、正確な医療情報に基づいた信頼される医療を行います。
- チーム医療を基本として、温かい医療を推進します。
お問い合わせ
本誌に関するご感想・ご希望・ご質問、また受診のご相談は、下記までお寄せください。
- 兵庫県立粒子線医療センター附属 神戸陽子線センター
- 〒650-0047 神戸市中央区港島南町1丁目6番8号
- TEL 078-335-8001(代表)/FAX 078-335-8006
- https://www.kobe-pc.jp/
- 兵庫県立粒子線医療センター
- https://www.hibmc.shingu.hyogo.jp/
