陽子線治療
肺がん
はじめに
肺がんは日本人の死因の上位を占める病気ですが、早期に発見できれば治癒が期待できます。 治療法には「手術」「放射線治療」「薬物療法」がありますが、陽子線治療は放射線治療の一種です。 「手術に近い治療効果」を「体への負担を少なく」実現できる治療法として注目されています。
このような患者さんに適しています
高齢で手術が難しい方
持病があって手術ができない方
手術はしたくないとご希望の方
陽子線治療の適応
主に以下の条件に当てはまる方が対象となります。
※治療が可能かどうかは、画像診断や全身状態をみて総合的に判断します。
1.早期肺がん(I期・II期)
大きさが5cm以下で、リンパ節や他の臓器への転移がないもの。
【保険診療】の対象となります。
2.局所進行非小細胞肺がん(III期)
リンパ節への転移があるものの、遠隔転移がないもの。
【先進医療】として治療を行います(原則、薬物療法との併用)。
3.手術後の再発
以前の治療箇所や新たな場所に再発した場合も、適応となることがあります。
治療の方法と期間
陽子線治療は、通院で行うことができます。治療中に痛みや熱さを感じることはありません。
早期肺がん
治療回数: 1日1回、原則として合計4~10回(約1~2週間)。一部、合計22回(約5週間)で行う場合があります。
病気が肺の奥(末梢型)か、気管支の近く(中枢型)かによって回数が決まります。
局所進行肺がん
治療回数: 1日1回、合計30回(約6~7週間)
原則として抗がん剤治療と併用して行います。
当センターの治療技術と特長
副作用を最小限に抑え、がんを狙い撃ちにするための高度な技術を導入しています。
① 金マーカー留置による位置合わせ
透視画像で病変が確認しづらい場合、病変の近くに小さな「金マーカー」を留置します。これを治療時の目印にすることでミリ単位のズレも補正し、正常な肺への照射を減らします。
② 呼吸同期照射
肺は呼吸に伴って動きます。当センターでは呼吸のリズムを監視し、「息を吐いて病変が安定した瞬間」だけ陽子線を照射します。これにより、動くがんを逃さず、無駄な照射を抑えます。
③ スキャニング照射
細い筆で絵を描くように陽子線を走らせる技術です。がんの複雑な形に合わせて正確に照射します。 (※2026年1月現在は呼吸による動きが少ない患者さんが対象ですが、順次拡大予定です)
④ 入院サポート
遠方の方や体調に不安のある方には、当センターから徒歩圏内の提携病院への入院をご案内しています。入院しながら無理なく通院治療を受けていただけます。
※入院は該当施設と調整が必要となります。
【トピック】間質性肺炎を合併されている方へ
「間質性肺炎」をお持ちの方にとって一番怖いのは、治療をきっかけとした肺炎の悪化(急性増悪)です。このきっかけを作るのは、強い放射線だけでなく、広い範囲に広がる弱い放射線も原因になると分かっています。
X線治療(SBRT)はどうしてもこの『弱い放射線』が肺全体に広がりやすいのですが、陽子線治療は『止まる』性質を持っているため、正常な肺への負担を物理的に最小限にすることができます。
実際に、X線と陽子線を比較した国際的な大規模解析(Chi et al. 2017)でも、陽子線の方が重い副作用が少ないという結果が出ています。基礎疾患をお持ちの患者さんにこそ、この『物理的な安全性の差』が大きな意味を持つと考えています。
参考文献
1. Chi A, et al. Radiother Oncol. 2017 (粒子線による毒性低減について)
よくあるご質問(肺がん)
-
Q肺がんの陽子線治療は何回くらいしますか?
早期肺がんでは原則として合計4~10回(約1~2週間)、局所進行肺がんでは合計30回(約6~7週間)です。
治療回数は、病気の広がりによって変わります。・早期肺がん:1日1回、原則として合計4~10回(約1~2週間)で治療します。病気が肺の奥(末梢型)か、気管支の近く(中枢型)かによって回数が決まり、合計22回(約5週間)で行う場合もあります。
・局所進行肺がん:1日1回、合計30回(約6~7週間)で治療します。原則として抗がん剤治療と併用して行います。いずれも通院で治療を受けていただけます。実際の回数は、診察と画像検査の結果をもとに決定します。
陽子線治療全般の回数・期間については、よくあるご質問(治療について)もあわせてご覧ください。 -
Q肺がんの陽子線治療の副作用はいつまで続きますか?
治療中から治療後数ヶ月にかけて出ることがありますが、陽子線治療では副作用の低減が期待できます。
肺がんの放射線治療でみられる主な副作用には、以下のようなものがあります。・肺臓炎(はいぞうえん):治療後1~3ヶ月頃に、咳や微熱、息切れが出ることがあります。
・食道炎:照射範囲に食道が含まれる場合、飲み込む時の痛みを感じることがあります。
・皮膚炎:照射部位の皮膚が日焼けのように赤くなることがあります。陽子線は体内の目標とする深さで止まる性質があるため、がん病巣の奥にある正常な肺や心臓、食道への被ばくの低減が期待できます。これにより、副作用のリスクや重症度を抑えられる可能性があります。
副作用に関する一般的なご質問は、よくあるご質問(治療について)をご覧ください。 -
Q肺がんの陽子線治療の費用はいくらですか?(保険適用について)
手術による根治的な治療が難しい早期(I~IIA期)の非小細胞肺がんは、健康保険が適用されます。
・保険適用となる場合:手術による根治的な治療が難しい早期(I~IIA期)の非小細胞肺がん
・上記に当てはまらない場合:先進医療または自由診療としての治療となります費用は病状や治療内容によって決まり、診察時に確定します。受診時に担当医から具体的にご説明いたしますので、ご相談ください。
費用の考え方は治療費用について、制度に関する一般的なご質問はよくあるご質問(費用について)をご覧ください。 -
Q肺がんの陽子線治療は痛いですか?
照射中に痛みや熱さを感じることはありません。
治療台の上に静かに寝ていただくだけで、レントゲン検査やCT検査を受けるのと同様の感覚です。肺は呼吸に伴って動くため、当センターでは呼吸のリズムを監視し、息を吐いて病変が安定した瞬間だけ陽子線を照射しています(呼吸同期照射)。
また、透視画像で病変が確認しづらい場合には、目印となる「金マーカー」を留置する処置を行うことがあります。必要な場合には、事前に詳しくご説明します。
治療中の痛みに関する一般的なご質問は、よくあるご質問(治療について)をご覧ください。 -
Q肺がんのステージがいくつだと陽子線治療ができますか?
早期(ステージI)から局所進行がん(ステージIII)まで適応があります。
・ステージI・II(早期):手術が難しい方に対する選択肢のひとつとして推奨されています。ご高齢の方や、心臓・肺に持病があり手術が難しい方に検討されます。
・ステージIII(局所進行):抗がん剤と組み合わせて根治を目指す場合があります。
・ステージIV(遠隔転移がある場合):原則として全身治療(薬物療法)が中心となりますが、転移の個数が少ない場合(オリゴ転移)などは、例外的に陽子線治療を検討することがあります。適応の判断は、病状や全身の状態を踏まえて個別に行います。まずはご相談ください。
監修:朴 成哲(放射線治療科)
