神戸新聞 2018年3月4日掲載

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陽子線の照射室(小児)

陽子線の照射室(小児)。子どもたちがリラックスできるように室内は温かい雰囲気

神戸陽子線センター開設記念座談会・下 小児がん治療 新たな光

放射線の一種で、エックス線より副作用による体への負担が少ない陽子線を使ってがんを治療する神戸陽子線センターは、兵庫県立粒子線医療センター(たつの市)の附属診療所で、小児がん治療ですでに数多くの実績を積んでいる兵庫県立こども病院と隣接し、緊密な連携により、特に小児がん治療に重点的に取り組んでいく。小児がん治療を取り巻く現状と課題、その中で神戸陽子センターが果たす役割について関係者に語ってもらった。

CT検査

陽子線治療の計画を立てるために使用されるCT検査

機器明るく開放的な待合室(小児)

機器明るく開放的な待合室(小児)=いずれも神戸市中央区港島南町1、神戸陽子線センター

最先端の技術

沖本智昭氏

沖本智昭氏

福光延吉氏

福光延吉氏

高い安全性に期待高まる、晩期合併症のリスク軽減

― 小児がん治療の現状は。

小阪

小児がんの治療は集学的治療といって抗がん剤を用いる化学療法と手術と放射線治療を組み合わせて治療効果を高めていくことが多い。放射線治療を行うと、2次的ながんが発生したり、ホルモンへの影響で発育が止まったり、男女ともに子どもができにくくなるなど晩期合併症が出ることがある。そのため放射線治療では当てる線量をいかに少なくし、晩期合併症を抑えることができるかが問われている。そこでクローズアップされているのが陽子線治療である。

― 陽子線治療の特長は。

沖本

放射線治療として代表的なエックス線はがん細胞に照射した後も体を突き抜ける性質を持っている。これに対し、陽子(水素の原子核)や重粒子(炭素の原子核)を使う粒子線はがん細胞をピンポイントで狙うことができ、しかも当たった後に急速に消える性質を持っている。こうした安全性が評価され、2年前に小児がんの陽子線治療に公的医療保険適用が認められた。

福光

粒子線治療の中でも小児の陽子線治療が最初に保険適用されたことに期待の大きさを感じる。

櫻井英幸氏

櫻井英幸氏

全国初こども病院と直結

― 筑波大では国内でいち早く小児がんの粒子線治療に取り組んでいる。

櫻井

1983年から粒子線治療に取り組んできた。早くから小児がんに有効で、安全性が高いのではという考えのもと毎年数例の小児がん治療を行い、データを積み重ねてきた結果、エックス線治療より副作用が少なく、効果は同等以上であることを示すことができた。
 放射線はがん細胞にはしっかりと照射しなければならない一方で、周囲の正常な細胞には極力当たらないようにしなければならない。そこで陽子線治療の強みが生きてくる。メリットは三つある。まずは臓器への障害を少なくし、直後もしくは治療から年月がたってからの晩期合併症が起こりにくいこと。二つ目は2次がんの発生を抑えること。そして三つ目が治療の難しいがんにも治るだけの放射線を当てやすくなること。
 ただ、小阪先生が言われたように、小児がんは集学的治療が必要なため、施設間連携が図られ、チーム医療ができる体制が整っていなければならない。小児がんは症例が少ないからこそ逆に拠点となる病院で症例を集めていく必要がある。そうした観点からも今回、全国でも初めてこども病院と隣接し、治療連携を行う陽子線治療施設ができたことの意義は大きい。

小阪

放射線治療が必要なケースでは、陽子線を積極的に活用していきたい。県立こども病院は全国で15指定されている小児がん拠点病院の一つで、その中でもトップクラスの小児がん症例数を持っている。その経験値を生かし、神戸陽子線センターと緊密な連携を図り、治療に当たっていきたい。

沖本

これまで、たつの市にある粒子線医療センターに小児がん患者の治療依頼があると、どのような治療計画を立てるべきか考えるために、こども病院の医師に来てもらい協議を重ねて判断する必要があった。また、受け入れた後も、例えば全身麻酔が必要な乳幼児を治療する際には、こども病院の麻酔専門医にわざわざ来てもらわなければならなかった。神戸陽子線センターがこども病院に隣接して通路で直接結ばれ緊密に連携できるメリットは大きい。

照射室の入り口

照射室の入り口。センターのいたるところでかわいいイラストをみることができる

目指す将来像

副島俊典氏

副島俊典氏

多くの患者受け入れたい

― 小児がん治療にあたりどのようなことに配慮しているのか。

副島

陽子線照射室を2室準備し、そのうち1室を小児専用としている。照射室の壁には、治療前の不安をやわらげられるように海の中にいるようなイラストが明るい色で描いてある。また、小児専門の麻酔医を常駐させている。小児患者はこども病院に入院していただき、隣接する神戸陽子線センターに治療に来てもらうことになる。

小阪

小児がん患者に使う抗がん剤はその副作用で白血球の数が極端に減り、免疫力が弱ってしまうことがある。その対応として、こども病院と神戸陽子線センターは連絡通路で直接結ばれ、治療フロアに行けるようになっている。また、成人患者の待合、治療スペースと小児用をしっかり分けていただいているので安心して治療を受けることができる。

小阪嘉之氏

小阪嘉之氏

安心できる温かい施設に

― どのような治療なのか。

副島

正確に照射するため、あらかじめCTやMRIなどの画像撮影装置を使って情報を集め、体の位置を定めるための補助具も作る。その後、3階の陽子線照射室の治療台に横になってもらい患部に照射する。治療時間は長くても15分ほどで、音も静かで、痛みもまったくない治療だ。1日に1回ずつ何日かに分けて照射する。

― どのような施設を目指していきたいか。

小阪

2017年12月に開設して以降、遠く宮崎や熊本からもお問い合わせをいただいている。陽子線治療について相談にも応じるので、気軽に県立こども病院に問い合わせてほしい。神戸陽子センターができたことで広く西日本から小児がん患者を受け入れ、さらに多くの症例を積み重ねていきたい。

副島

子どもたちが安心して治療が受けられる温かい施設を目指す。そして、小児がんの陽子線治療について質のよいデータを数多く集めていき、陽子線治療を選べば晩期合併症が少なく、治療効果も高いことをしっかりアピールできる発信地にしていきたい。

3Fの陽子線治療フロア