神戸新聞 2018年2月25日掲載

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神戸陽子線センター

2017年にオープンした神戸陽子線センター。左奥は県立こども病院。連携体制が整っている=神戸市中央区港島南町1、神戸陽子線センター

神戸陽子線センター開設記念座談会・上 最前線のがん治療 神戸で

副作用や体への負担が少ないがんの治療法のひとつとして、近年注目されている陽子線治療の施設「神戸陽子線センター」は、小児用と大人用それぞれ専用の治療室を備え、隣接する県立こども病院と連携することで、特に小児がんについて効果的な治療が期待できることが特長だ。また、兵庫県立粒子線医療センター(たつの市)の附属診療所として、これまでに培われてきたノウハウも活用し、利便性のよい立地で広範囲からの外来治療や相談などにも対応しやすい。神戸陽子線センターの概要や陽子線を含む粒子線治療の現状について紹介する。

出席者

筑波大学医学医療系放射線腫瘍学教授 櫻井英幸氏
兵庫県立粒子線医療センター院長 沖本智昭氏
兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター長 副島俊典氏
兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター副センター長 福光延吉氏
兵庫県立こども病院小児がん医療センター長 小阪嘉之氏

※ 掲載内容は座談会開催日(2018年1月25日時点)のものです。

粒子線治療とは

沖本智昭氏

沖本智昭氏

痛みなく照射副作用軽減

― 粒子線治療の特長について。

沖本

水素の原子核である陽子、炭素の原子核である重粒子を使った治療を総称して粒子線治療という。粒子線治療は放射線治療の一種で、陽子線、重粒子線と呼ばれるビームをがん細胞に当てる治療法。放射線治療で一般的に使われるエックス線は体を突き抜けてしまうのに対し、粒子線は一定の深さでエネルギー量が最大になった後、消滅する。この性質により、がん細胞以外に余分な放射線を当てずに済み、副作用を引き起こすリスクが少ない。

―具体的な治療は。

沖本

成人の場合、粒子線治療の対象となるのは「他に転移のない固形がん」が基本で「前立腺がん」「肝がん」「膵がん」「骨軟部腫瘍」など。1回当たりの治療時間は準備も含めて30分程度。照射中は、痛みもかゆみも無い。

福光延吉氏

福光延吉氏

櫻井英幸氏

櫻井英幸氏

広がる公的保険適用範囲

― 治療費が高額と聞くが。

沖本

粒子線医療センターでの治療費は1つの治療に対して288万3千円(入院・検査費別途必要)と高額だが、民間の先進医療保険の給付対象になる。公的医療保険の適用拡大が課題と思っている。

福光

粒子線治療は普及の途上で、公的医療保険の対象となっているのはまだごく一部。先進医療については、どのようながんが対象として適切か学会で話し合われ、「根治的な照射ができる」「照射範囲を小さくすることでメリットが出る」「動く臓器に対策が可能」「緊急でない」―との条件が示されている。
16年には疾患別の統一治療方針が出され、国内全ての粒子線治療施設でその方針のもと先進医療として治療が行われている。これらの取り組みの結果、陽子線治療では小児がんが、重粒子線治療では手術が難しい骨肉種、頭蓋底のがんが公的医療保険適用となっている。

櫻井

成人の場合、基本的に粒子線治療でないと治せない病気が優先的に公的医療保険適用となる。今年4月の診療報酬改定により新たに、陽子線治療でも骨肉種、頭蓋底のがんが適用となる見通し。また、陽子線、重粒子線の両方について前立腺がん、骨軟部と頭頸部のがんも適用になる見込みである。

粒子線治療の特長とは
粒子線治療の特長

今後の展望

小阪嘉之氏

小阪嘉之氏

小児療養の有効性に注目

― 小児がんの現状について。

小阪

小児がんの症例は全国で年間2500程度。肺がんだけでも10万人いる成人のがんと比べると希少疾患といえる。その約半分は白血病、悪性リンパ腫などの造血器腫瘍が占める。残り半分が固形腫瘍と呼ばれる塊のがん。小児がん治療は目覚ましい進歩を遂げており、一部で難治の例はあるものの、全体では7割以上が治るまでになっている。そのため、いかに晩期合併症を抑えて治すことができるかが問われており、治療法のひとつとして陽子線治療が注目されている。

― 開設から2カ月あまりがたった。神戸陽子線センターの現状は。

副島

2018年2月までは準備段階で、3月から先進医療をスタートする。当初は1日数人のペースで行い、徐々に数十人規模に増やしていきたい。また小児の治療についても3月から始める予定。すでにどうしたら治療が受けられるのかといった問い合わせもいくつか受けており、陽子線治療に関する期待の高さを感じている。

副島俊典氏

副島俊典氏

施設間連携最大限生かす

― 親施設に当たる粒子線医療センターはどうか。

沖本

たつの市に立地する粒子線医療センターは50床あり、入院できることが特長。カテーテル治療ができる専門医が常駐しているほか、神戸大学医学部附属病院や近隣の病院と連携し、外科、消化器内科の専門医に定期的に来てもらうことで、主に肝臓、胆のう、すい臓のがん患者を多く受け入れている。一方、神戸陽子線センターには成人用の入院施設が無いため、小さながんで治療中に大きな副作用を起こす恐れが無く、通院できる方が主な対象となるが、周辺施設との連携で治療の幅が広がっていくだろう。
また、粒子線医療センターで治療した後の経過観察について、大阪や神戸からアクセスがよい神戸陽子線センターの外来で診る方法も考えられる。粒子線治療がどのようなものか、自分が治療の対象となるのか相談してみたいという問い合わせにも積極的に応じていく。

(上)陽子線の照射室(成人)。陽子線を病巣にピンポイントで照射する (下)陽子加速器。最大で光速の約7割に達する

(上)陽子線の照射室(成人)。陽子線を病巣にピンポイントで照射する (下)陽子加速器。最大で光速の約7割に達する

― 施設間連携は。

副島

神戸陽子線センターでは、粒子線医療センターとの間でテレビ会議ができる環境を整え、画像情報も含めカルテを共有する。また、医療機関が集積している神戸ポートアイランドのメリットを最大限に生かしたい。例えば、近隣の医療機関で抗がん剤治療を受けている肺、食道の進行がんの患者が、こちらで陽子線治療を受けるといったこともできる。入院が必要な症例の場合は、入院施設を持つ神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センターと連携することも考えている。

沖本

兵庫県が粒子線医療センターを2001年に開設して以来、陽子線と重粒子線両方の治療装置を持つ全国唯一の施設として17年間で約8400人の症例を積み重ねてきた。今後、神戸陽子線センターとともに症例を増やし、粒子線治療のさらなる普及に向け役割を果たしていきたい。